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三相電力と無効電力

    (2024/06/17).

     平衡三相電力の計算。

     前に、電力送電システムの物理学 を挙げた。そこでは、三相電力の計算やその物理的意味を示していない。
    電力理論でも、三本の電線で囲まれた空間が三つある。その意味を右図に示した。その三つの空間を『三相』の意味、電気エネルギーが伝送される空間が三空間あるという意味だ。

     三相電力はその三つの空間を通して伝送される。今その線間に掛かる三相電圧を図のように、 Vab, Vbc そしてVcaとし、次の式で考える。ただし、電圧実効値をV[V] とする。

     Vab= √(2) Vsin ωt [V]
      Vbc = √(2) Vsin(ωt-2π/3) [V]
    および 
     Vca = √(2) Vsin(ωt-4π/3) [V] 

     同様に、三相のその電圧に対する電流値を iab ,ibc および ica とする。その三相負荷が平衡負荷でしかもその力率を cos φ とする。負荷の力率がcos φ と言う事は、電気理論で、三相の各相電流の位相がそれぞれの電圧位相より、φ [rad] だけ遅れるか、進むかの意味だ。ここでは、遅れ負荷力率角として-φとした。

     Iab = √(2) I sin(ωt-φ) [A]
     Ibc = √(2) I sin(ωt-2π/3-φ) [A]
     Ica = √(2) I sin(ωt-4π/3-φ) [A] 
     となる。

     三相電力計算。久し振りに三角関数の計算で戸惑った。各相電力は電圧と電流の積で、次の計算で得られる。
     p₁= Vab Iab = 2VI sinωt {sinωt cos φ – cos ωt sin φ}
    p₂=Vbc Ibc = 2VI sin(ωt- 2π/3) {sin(ωt- 2π/3)cosφ ーcos(ωt-2π/3)sinφ}
    p₃=Vca Ica = 2VI sin(ωt-4π/3) {sin(ωt-4/π3)cosφ ーcos(ωt-4π/3)sinφ}

     各相の線間の伝送電力は各相が電線路に対して独立電源として機能する。三相分の電力pは、その合計値p=p₁+p₂+p₃で計算できる。
     三相平衡負荷の場合、三相電力pの計算結果は、

       p=3VI {‥cos φ + ‥sin φ} = 3VI cos φ [W]

     とsinφ の項はゼロとなり、cosφの項だけとなる。相電流の代わりに、一般には線路電流で表現するから、線路電流を  Ip=√(3) I  で表せば

     三相電力の一般的な表式は、線間電圧 Vp と線路電流 Ip によって

      P=√3V Ip cosφ [W]

     となる。

     三相電力の場合には、三相で電力値は直流電源の場合と同じく、一定値の変動の無い電磁エネルギーの流れとなる。大電力の伝送としては、基本的な伝送電力量が脈動の無い直流値になる事は系統機能として有効なものである。ただし、負荷が原則的に、三相平衡で、時間的に変動しない場合ではある。

     さて、ここで考えて見よう。三相電力の sinφ の項は各相では電力の流れとなっている。しかし三相合成するとゼロとなる。その電力分はとても厄介なものでもある。それを「無効電力」と呼ぶ。確かに各相では空間を伝送されている訳で、役に立たないと言う訳ではなく、負荷の特性によって決まるエネルギーの受電と負荷からの電源への帰還分であり、基本的には欠かせない電力分である。単相回路にはこの無効電力の流れが有効電力と変わりなく、計算式で算定出来て、実際の電力分の成分として理解できる。

     瞬時虚電力。

     その無効電力であるsinφの項の電力分を瞬時値として算定できれば、その厄介な電磁エネルギー流成分を制御して消すことも出来る。それで系統の容量にも負担が少なくなる筈だ。近年は負荷などの制御性が複雑となり、系統の無効電力分が不都合なものとなって来た面もある。しかし、その電力の瞬時値が算定できなければ、その厄介な成分を除去できない。その無効電力の物理的現象は、結局三相全体として、伝送線路内を還流している電磁エネルギーであったのだ。電源と負荷の間で、負荷への伝送分と、負荷から電源に返送される電力分が常に等しいと言う事だったのだ。だから差し引き「零」となって計算値として、sinφ の項の成分として消えて算定できない。その無効電力分をある切っ掛けで、瞬時的にどんなに複雑に変化しても、その無効電力成分を瞬時値として測定できることになった。その電力分が無効電力 q である。その無効電力の計測算定値を『瞬時虚電力』と名付けた。それは電圧と電流との回転空間ベクトルの『ベクトル積』の瞬時値として算定できることになった。この瞬時虚電力を計測できることで、新しい電力制御法が確立できた。電力伝送系統回路の、余分なスイッチング制御負荷に依る無効電力の負担が少なく出来ることになった。

     その電力成分の関係を、電線路空間の有効電力(実電力と名付けた)pと三相間で空間を回転している成分の無効電力(虚電力と名付けた)q の物理的意味であった。その意味を図形に示せば、空間ベクトルと回転軸 のような意味となる。

     瞬時虚電力の意味は空間ベクトルの『ベクトル積』によって瞬時値として算定できる。参考文献は、
     赤木他:瞬時無効電力の一般化理論とその応用 電学論B 103,483(昭58-7)。